斎藤 滋先生の紹介ビデオ

湘南鎌倉総合病院 斎藤 滋先生

井上:今日は心筋梗塞の救急についてお話いただきたいと思います。心筋梗塞は脳卒中と違ってCTスキャンMRIなど大掛りな装置は必要なく、一般の開業医の先生でも心電図、胸部レントゲン、または血液検査でだいたいの診断がつけられます。

齋藤:そうですね。ただ血液検査となると結果が出るまでちょっと時間がかかります。急性心筋梗塞の場合病院に担ぎ込まれれば5%位の死亡率ですが、全体としてみれば30~40%の死亡率があるだろうといわれています。ですから、胸の痛みや訳の判らない血圧低下といった症状があったら、心筋梗塞の可能性も考慮することが患者さんのためにもなると思います。

井上:患者さんの方でも吐き気や腹部の不快感などの症状のため内科を受診されることもあります。そんな時心筋梗塞のことが念頭になければ、胃カメラの検査を受けてもらうなんてこともありますね。 ちょっとでも胸部痛があったり、ST値の変化があったりしたら専門医に送ってもかまわないと。

齋藤:はい。それとST値が正常だから安全とは言い切れません。というのは完全に心筋梗塞になりきる前の状態では血栓が詰まったり、流れたりが繰り返されています。この再還流している状態ではST値が正常値になります。ですので先生方のこれまでの経験と照らし合わせて、消化器ではないと思われるようならお送りいただいて構いません。診察時の心電図はまったく正常、本人の希望もあったので入院してもらったらST値が徐々に上がって心筋梗塞になってしまった例もあります。ですから心電図も100%ではないと思います。

井上:なるほど。心電図上あまり変化が出てなくても、血圧低下で顔面蒼白といった状態もありますがいかがですか?

齋藤:それは危険な兆候です。ですからまず心筋梗塞と思われたら直ぐに送ってください。

井上:治療についてお伺いします。出来るだけ早く治療するのが理想でしょうが、どれくらいの間に処置するのがいいのでしょうか?

齋藤:実験上、冠動脈が閉塞して3時間以内に再還流しなければ心臓の細胞が壊死するといわれています。ただ冠動脈閉塞といっても実際には詰まったり、流れたりを繰り返していると考えられてます。昔は6時間といわれていましたが、今は12時間、場合によっては24時間でも再還流療法の適用時間内といわれています。
心筋梗塞の急性期の治療でいいますと日本は世界でもトップレベルだと思います。心筋梗塞で病院に運ばれた場合、日本では昼夜を問わず80数%はPTCA治療を受けることができます。

井上:治療方法としてはやはりPTCAがいいと。

齋藤:学会でもPTCAか血栓溶解療法かという議論がなされてきましたが、現在はPTCAの方が有効であるということになりつつあります。ただどんな時でもPTCAをすればいいという訳ではありません。例えば冠動脈が詰まった上に動脈硬化がある状態の時、バイパス手術のほうがいい場合もあります。また再狭窄を繰り返す場合や部位によってはバイパス手術のほうがいい時もあります。

井上:心筋梗塞の治療を受けた後で気をつけることはどういったことでしょう?

齋藤:心筋梗塞の予後においては二次予防が重要だと思います。例をあげると糖尿病の管理、禁煙、コレステロールの管理などです。一度心筋梗塞を起こした方は健常者よりも血糖値、LDL値を低い値にするべきです。
それと適切な運動をすることも重要です。これはあくまで再還流療法をきちんとやった場合ですが、運動した方が長期的な予後がいいという研究もあります。アメリカなどでは3日で退院するところを日本では3週間も入院していることもあります。その間検査の予約待ちで寝ているだけということもあるかもしれません。
日本は急性期の治療の面では世界でもトップクラスですが、残念ながら心臓病患者に対するリハビリ施設が少ないんです。このあたりは変えていかなくてはならない課題だと思います。

井上:生活習慣に気を使って適度な運動をしましょうと。

齋藤:そうですね。それと禁煙は絶対です。僕も20年前に禁煙しました。ですから禁煙のつらさも分かるんですが、経験者の立場から患者さんにも強く言えるんです。(笑)

※先生の肩書き、所属等はインタビュー当時(2004年2月2日)のものです。