高井内科クリニック 高井 昌彦先生
井上:大船西友の高井内科クリニックの高井先生をご紹介いたします。先生は糖尿病がご専門ですが、糖尿病の心筋梗塞と脳梗塞に及ぼす危険性についてお話いただきます。糖尿病は日本人の何%いらっしゃるのですか?
高井:推定で1600万人です。予備軍も含めると国民の20%位と言われていますね。
井上:糖尿病と動脈硬化との関係はどうですか?
高井:今問題になっておりますのは、空腹時血糖があまり高くなくて食後血糖が高い方が、動脈硬化がひどくなるようですね。勿論両方とも高い方は、もっと悪いのですが。動脈硬化の危険因子としては、高血圧、高コレステロール血症、喫煙、糖尿病などがあります。糖尿病はこの中でも2つ分に相当するくらい大きな要因です。
井上:心筋梗塞と糖尿病の関係をお聞かせください。
高井:糖尿病と心筋梗塞の関係で特徴的なのは、女性の頻度が高いということです。普通、心筋梗塞は圧倒的に男性が多いのですが、糖尿病の女性は心筋梗塞になる危険性が糖尿病のない女性の6倍もあります。
男性では糖尿病があるとない方の1.5倍~2倍の範囲ですので、糖尿病の女性はやはりリスクが高いです。女性の心筋梗塞は糖尿病を疑えと言われます。
井上:女性は男性に比べ、女性ホルモンにより動脈硬化を起こしにくいといわれていますが、それでもそんなに多いのですね。
高井:確かに女性は更年期くらいから、女性ホルモンが衰退し始めます。この時期の女性ホルモンの低下と糖尿病が合わさると加速度的に心筋梗塞の発症が増えますね。とはいえ、いくら糖尿病があるといっても、更年期前の三十~四十代の女性で心筋梗塞を発症する方はほとんど見られません。
井上:動脈硬化の程度の測定はどのようにされてますか?
高井:ひとつは、頚動脈の内膜、中膜をあわせたIMTというのを、超音波で測定します。頚動脈は測定しやすい上に動脈硬化の初期病変をみられるので、このIMTの厚さをみることでどの程度動脈硬化が進んでいるか判断できます。これは比較的容易にできますし、患者さんに負担がかかりません。
もうひとつは、脈波速度といって、四肢の血圧を計測することで血管の状態を診断します。例えば、腕と足首の血圧を同時に計測して血圧に差があれば、どちらかに閉塞性動脈硬化症があると考えることができます。また血管が硬いほど脈は速く伝わるので、どの程度動脈硬化が進んでいるか判断できます。
ただどちらもひとつの指標に過ぎず、それですべてを判断できるわけではありません。
井上:眼底検査はいかがですか?
高井:これも動脈硬化を測定する際、とても良い指標なのですが、内科医にとって眼底検査はとても大変なのです。頚動脈を超音波で見たほうが、患者さんも楽ですね。
井上:ほかに糖尿病で特徴的な事はありますか?
高井:心臓だけでなく、他の臓器にも同時に出るということですね。糖尿病があると血管の一部分だけが弱くなっているということはなく、いろんな血管が同時に弱くなっていくからです。
それと糖尿病で厄介なのは、無痛性心筋梗塞です。普通、心筋梗塞の症状としては胸部の激痛があるのですが、神経の知覚低下のために胸が重いくらいの症状しか出ず見逃される事があります。心不全になって見つかることもあります。
井上:ほかに糖尿病専門でない先生で、気を付けなければいけない点は?
高井:老人の場合、心筋梗塞でも嘔吐という症状で来られる場合があります。お年寄りで原因がわからず吐いている場合、心筋梗塞の疑いもあるので、胃の検査よりも心電図を先にとらないといけませんね。糖尿病の患者さんは心筋梗塞の典型的な症状が出にくいので注意が必要です。
井上:脳梗塞はいかがですか?
高井:多発性脳梗塞が多いですね。糖尿病の患者さんの場合、正常の人に比べ、ラクナ梗塞が多いです。
井上:低血糖発作なのですが、糖尿病薬を使っていない患者さんでも起こすことありますか?
高井:いえ、ほとんど臨床の場ではありません。
井上:お酒ばかり飲んでいて、ご飯を食べない人も低血糖発作を起こすことはありますか?
高井:ええ、糖尿病の薬を飲んでいない限り、ありませんね。ただアルコールは、エネルギーのもとにはなりますが、糖に分解される迄時間がかかります。食事をしないでアルコールだけでは、SU剤などの糖尿病の薬を飲んでいると低血糖発作を起こしますね。ですからお酒を飲んで意識が無くなっている人でもよく聞かないと、単に酔っ払って寝ているだけじゃなくて低血糖で意識のない場合もあります。生理食塩水の点滴から5%ブドウ糖にかえたら目を覚ましたなんてこともありますから。(笑)
井上:全ての可能性を頭にいれておかないといけませんね。
※先生の肩書き、所属等はインタビュー当時(2004年2月18日)のものです。