藤沢市民病院 板東 邦秋先生
井上:藤沢市民病院の救急体制に関してお聞かせください。
板東:救急に関しては小児科で11人の医師が小児ERをやっていますし、一般の方に対してもERを設けています。夜間でも一日50人くらい受診されています。脳外科の手術に関しては血栓溶解術もやってますし、脊髄に力を入れています。藤沢市民病院では月に2回程救急隊とカンファレンスを行ない情報交換に勉めています。
井上:救急隊にとっては搬送しやすいと思いますが、受け入れ態勢はどのようになっていますか?
板東:現在ICUが6床です。現実の問題として受け入れることができないこともありますが、とにかく患者さんを断らないように鋭意努力しています。
井上:脳外科の先生は毎日当直しているのですか?
板東:脳外科の医師は5人いるのですが救急当直は月の半分くらいです。その他の日もオンコールですぐ対応できるようになってます。
井上:当直体制が整えば脳卒中で倒れた患者さんも3~6時間以内に診療できますね。
板東:アメリカなどでは重篤な意識障害が起こった患者さんを30分以内に病院に収容してくれというキャンペーンを学会がお金をかけてやっています。ゴールデンタイムの間に診察ができれば救命率が2~3割あがる可能性があるんですよ。麻痺とか意識障害で寝たきりになるような人が自分のことをできるようになれば、医療費の削減につながるわけです。寝たきりの人を介護するには実は莫大なお金がかかっています。
井上:送る側の診療所でも遠慮があったとおもうんですよ。ですが受ける側の先生が早いほどいいと言っていただけると確信をもって送れます。
板東:基本的には確信をもっていただいていいんですよ。(笑) 現実には電話してみると断る人もいるかもしれないですが、それに対しては啓蒙しかないと思いますね。公開講座やインターネットで情報を公開していって、キャンペーンのように地道にやっていく必要がありますね。私も市民公開講座をやったりしているのですが、なかなか人が集まってくれません。理想としては医師会などを通じて市民や診療所の先生を集めてコンスタントにアピールする場があるといいと思います。それと藤沢市民病院では脳卒中なら脳卒中で外科、内科、放射線科といったスタッフがチームを作り、一つの疾患に対応していこうという再編がなされています。そういった形で救急は随時受け入れていきます。万一うちの病院で断られた場合、言っていただければ、私も堂々と拒否した医師にクレームをつけられます。
井上:現実にはベッドのやり繰りなどで対処できないこともあるでしょうが、地域で診られる病院がいくつかあれば他にあたることもできます。そういった情報を提供するネットワークを作りたいと思っているんですけどね。
板東:現在各学会でガイドラインをつくっていまして、それを紹介するネットワークをつくることも有意義だと思います。そうすることによって多くの人に知ってもらえるでしょうし。例えば正常圧水頭症という病気があります。これは痴呆などを引き起こすのですがアルツハイマー症や脳血管性の痴呆と判別が難しいんです。日本では推定で3~8万人いるといわれています。手術すれば痴呆もなくなり歩けるようになるんですが、あまり知られていないのと診断が難しいため年間で千例程度の手術しかされていません。こういった方が適切な処置を受ければかなり医療費の削減になるんですよ。そう思っていろんなところで宣伝しているんですが、来ないですね。(笑)
井上:大きなネックは病院の宣伝行為が禁止されていることだと思います。もちろん過大広告につながるような宣伝活動は禁止されるべきですが、こういったことは広く知ってもらう必要があるのではないかと思います。
板東:そうですね。特にお年寄りを診ているような開業の先生に意識を持ってもらうだけでまったく違った結果になると思います。九州でやっている先生の話なのですが周りに他に病院がないため、地域の老人は全てその先生のところに集まってくるんですよ。そこで正常圧水頭症の疑いがある患者さんをかったっぱしから検査をした結果、年間で50件の手術をしたそうです。普通多くても年間5件程度なのでこれは驚異的です。ですから行き着くところは、やはり開業医の先生を啓蒙していくということだと思います。
井上:そういった情報は市の医師会を超えて鎌倉、横浜なども含めた広範囲で知ってもらいたいですね。
板東:それにはインターネットは非常に有効だと思います。
井上:私はこのWEBサイトを立ち上げるためにいろんな先生とお会いするのが楽しみなんですよ。こんな近くにこんなすごいことやっている先生がいるって新たに知るのが歓びになってきています。(笑)
板東:インターネットのお陰で知識をつけてる方もいらっしゃいます。情報伝達ツールとして確立していけば興味のある人が集まってきますからね。私たちもそれを待ち望んでいます。他にも宣伝したいことがいっぱいあるんですよ。
井上:この機会にどうぞ。
板東:ではこの場をお借りして。(笑) 圧迫骨折の骨セメント療法というのがあります。現在背骨の圧迫骨折の治療法としては一カ月くらい寝たきりで安静にするというのが一般的ですが、老人の場合ですとその間に痴呆がでたりするわけです。そこで背中から液状にしたレジンを注入します。レジンとは歯に詰めたりする硬い樹脂なんですが、それを注入すると折れた骨が固まって痛みが止まります。この治療法ですと翌日からでも起きられます。
井上:藤沢市民病院でもやっているのですか?
板東:やっているんですよ。脳外科が脊髄やるって知られていないんですけどね。本来はneuro-surgeryといって神経外科とでも訳すのですが、日本語にするときに脳外科ってしてしまったんです。アメリカなんかでは6割くらいが脊髄の手術をしているんです。こういうことをいろんなところで話してきてやっと年間40例くらいくるようになってきました。
井上:圧迫骨折などは本当によくある症例で、そういった治療法も聞いたことがありましたが、こんな近くでやっている方がいらっしゃるとは思いませんでした。先生が藤沢市医師会で宣伝していても鎌倉までなかなか伝わってこないんですよ。
板東:こういうのがあるから紹介して下さいと言ってはいるんですが、なかなか届かないんですよね。これも医療経済効果があるんですよ。動くのも痛い患者さんが起きられるわけですから。医師に相談のうえご検討ください。
※先生の肩書き、所属等はインタビュー当時(2003年12月10日)のものです。